2025/12/26 (金)
実は身近な伝統芸能「能楽」の世界――和文化を体感した能体験講座
令和7年11月18日、名古屋市中村区で開催された「和文化体験道場 能体験」に参加してきました。株式会社JFF主催、「和文化体験道場」協力のもと、「愛知で能楽を普及する会~名古屋 西尾 能楽講座~ プロデュース・企画 西川嘉津美」が新たなエッセンスを加えて実現したこの特別企画は、単なる能楽鑑賞の枠を超えた文化体験となりました。
目次
豊臣兄弟ゆかりの地で紡がれる「能」の世界
会場となった中村区は、豊臣秀吉・秀長兄弟が生まれた歴史的な土地。来年からはNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」の放送開始、そして「豊臣ミュージアム」のオープンを控え、地域全体が期待に胸を膨らませていることでしょう。そんな歴史の息吹を感じる場所で、三英傑も嗜んだという「能」を体験できるというのは、なんとも贅沢な企画ではないでしょうか。
武が薫る戦国時代へとタイムスリップしたかのような、凛とした空気と侍の志を感じさせる建物に入り会場へ。参加者たちが続々と集まり、午後3時、講座が始まりました。

講師をつとめるのは、能楽師の家系に生まれ育った武田友志先生。
先生はまず、能の成り立ちを歴史的な観点から丁寧に解説してくれました。室町時代に文化的進歩を遂げた能楽は、以降700年もの間、途絶えることなく受け継がれてきたといいます。この事実だけでも、能楽が日本文化の中でいかに重要な位置を占めてきたかが理解できます。
能舞台の構造についての話も印象的でした。
舞台はヒノキで作られており、驚くべきことに釘が一本も使用されていないそう。「檜舞台」という言葉の語源にもなっているこの伝統的な建築技術に、参加者一同、感嘆の声を上げました。また、舞台の鏡板には通常「老松」が描かれるのが一般的ですが、名古屋能楽堂では「若松」が描かれ物議を醸したというエピソードも興味深かったです。最終的には若松と老松を交互に飾ることで折り合いをつけたそうですが、こうした細部へのこだわりや配慮にも、能楽の奥深さが表れています。
能楽の配役についても詳しく説明がありました。主役を務めるシテ方(多くの場合、人ではなく霊や神など)、物語のナビゲーター役を務めるワキ方(僧侶や神職など)、シテやワキの相方となる狂言方、そして楽器を演奏する囃子方。これら四つの役割が織りなす調和こそが、能の舞台を成立させています。囃子方の楽器同士の掛け合いは、素晴らしい舞台には欠かせない要素のひとつと先生は教えてくれました。

講座中、謡(うたい)の実演として、先生と生徒さんのお稽古風景も披露してくださり、お二人が発する声の響きが空間全体を満たし、体の芯まで振動が伝わってくるようでした。アットホームな座学形式ゆえに演者との距離が驚くほど近く、臨場感がありました。こぶしやしゃくり、ビブラートのような技術が駆使されていますが、西洋音楽のような音階をベースにした音取りではなく、独特な音階なのに心地よい響き。演技も謡も体の中心である腹を使うため、ダンスをやっている人や、歌や楽器演奏の腕を上げたい人にも有益だろうなと感じました。
武田先生のお話の中でもうひとつ興味深かったのは、能の独特な表現方法。能は顔を出していても表情の演技はしない。感情や心情を直接的に伝えるのではなく、見る人に自由な想像と解釈を提供するのだといいます。先生は20歳の時の修行で、「余計なことをしないこと、素を出さないこと」を徹底して訓練されたそう。この「引き算の美学」こそが、能の本質なのでしょう。
世阿弥が説いた「初心忘るべからず」「離見の見」ということの意味を解説し、能は感じるままに、見た人に自由に楽しんでもらいたい――武田先生はそう言います。この言葉が、能楽の本質を端的に表しています。
武田先生曰く「能の謡を聴くと眠くなる人がいるが、寝てしまっても良い」そう。謡にはアルファ波が出る倍音が含まれていて眠くなるのは当然のようで、能楽は癒しの効果もあるのかと感じました。


プログラムの後半には、喫茶の時間が設けられていました。地元名古屋の銘菓とお茶が振る舞われ、先生への質疑応答や参加者同士が感想を語り合う憩いのひとときとなりました。茶菓子を味わいながら能の世界について語り合う、この何気ない時間こそが、日本文化の粋ではないでしょうか。五感で理解することは、人間が元々持っている能力。見て感じたことを自身に投影して見ると、面白い発見がありました。


「能って面白い!観るのも良いけどやってみたい!そう思った人はぜひ、お稽古に参加されてみてください。」と笑顔で提案してくださる先生。
確かに!実際にやってみるとさらに能楽への理解が深まりそうです。
思ったより気軽に始められる能楽の世界

「能楽って、敷居が高そう…」「選ばれた人しか学べないんじゃ…」
たくさんの人がそう感じていると思いますが、実は、名古屋市内で驚くほど気軽に始められる能楽教室があるんです。
習い事を続ける秘訣は「通いやすさ」。この教室は、新栄駅から徒歩10分以内という好立地にあります。休日のちょっとした時間に、気負わず通えるのが嬉しいポイントですよね。いつもの生活圏内で本格的な能楽のお稽古ができます。
「厳しい指導についていけるか不安…」という心配も無用です。
「厳しくか優しくか、指導方針も生徒さんに選んでもらってます」と、先生は笑顔で言います。伝統芸能だからといって、画一的な厳格さを押し付けることはありません。初心者の方も、自分に合ったペースで無理なく学べる環境が整っています。

「いきなり始めるのはちょっと…」という方も大丈夫。
見学もできます。本格的な舞台が設置されたお部屋で、舞台正面に先生と生徒さんが向き合うようにして座って指導してくれます。
お稽古は正座が出来なくても可能です。
今回、実際のお稽古風景を見学させていただきました。
しばらく謡声を聴いていると、遠くに笛や鼓、太鼓の音が聴こえてくるような、不思議な感覚に包まれました。この雰囲気を実際に体感してから「やってみようかな」と決めることができるのはとても良いなと感じました。

能楽師とのコミュニケーションを通じて奥深さを実感し、基礎から丁寧に「謡(うたい)」と「仕舞(しまい)」を指導していただけます。
無料の体験講座も開催されており、まったく経験のない方でも気軽に参加できます。個人での参加はもちろん、団体での参加も可能です。観世流シテ方である武田友志さんと観世流太鼓方の加藤洋輝さんが講師として、丁寧に指導してくれます。
マンガで楽しく能の世界に触れる!?「ふきだし能」って!?

「能楽って難しそう…」そんな不安を吹き飛ばすのが、この「ふきだし能」。(株)檜書店発行の『まんがで楽しむ能の名曲七〇番』から引用し、各曲の特徴的な謡の部分を吹き出し形式で紹介。まるでマンガのセリフのように、能の名場面が親しみやすくデザインされています。
「行く川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず」(『養老』より)、「トン テン カン コンコン」(『小鍛冶』の擬音)――こうした印象的なフレーズが視覚的に楽しめるから、能楽が初めての方でも「これ、知ってる!」という入口が見つかるはず。言葉のリズムや響きの美しさ、物語のドラマを、まずは気軽に味わってみてはいかがでしょう。

また、「ふきだし能」は読書会などのイベント開催時に紹介されており、参加いただいた際に手に取ることができます。過去イベント開催時にMCを努めたのは、ダンス講師の若子理愛子(わかこりえこ)さん。きっかけは、師である香瑠鼓(かおるこ)先生のメソッドが能楽の影響を受けていると耳にしたこと。そこから能楽に触れ、その魅力を多くの人に伝えたいという想いを抱いたといいます。愛知県に能楽を普及する会の想いに共感し、色々なイベントに携わられています。
講座の参加者にインタビューしてみました!
本イベントでは、上記で紹介した若子さんと参加者のかみやさんにお話を伺うことができました。二人の体験談は、能楽が持つ不思議な力を如実に物語っていました。


ハマったきっかけ
若子さんは、「初めての観劇では、正直なところ話の筋や言葉が理解できず、戸惑いがありました。でも気づいたらリズムを取っていたんです。体が勝手に反応していて、『この感覚知ってる』って思いました」と語ってくれました。能楽に入り込めば入り込むほど、自身の体が細胞レベルで喜んでいるような感覚になったという。
一方、かみやさんは気功を実践されており、能楽の謡と舞いに通ずるものを見出しているそう。「能楽の響きや空間はオーケストラとは全く異なり独特です。でも日本人的観点からすると、自分の中のどこかに潜んでいる感覚や懐かしさを感じるんです」。言葉を大切にしているからこその響きや表現方法としての音に共鳴する感覚に「病みつき」になっているという。
好きなところや心を動かされたポイント
印象的だったのは、若子さんが小学5年生の息子さんを連れて能楽を鑑賞した時のエピソード。「幼い息子が真剣に見入る姿を見て、驚きました。子どもは正直ですから、つまらなければすぐに飽きてしまうはずなんです。でも息子は食い入るように舞台を見ていて。その時確信したんです。『この音、リズム、空気感を幼いながらに知ってるんだ』って」。
この体験から若子さんは、能楽が日本人が1000年以上繋いできた文化であり、私たちの中にそのDNAが受け継がれているからこそ、目、耳、肌で感じて共鳴できるのだと深く理解したと語ります。「理解しようとしなくていいんです。ただ感じればいい。それだけで体が反応してくれる。これってすごいことだと思いませんか」。
かみやさんが強調するのは、「見えないものへの感度」。「現代社会は、見えるものばかりを重視します。数字やデータ、目に見える成果。でも本当に大切なものは、見えないところにあるんじゃないでしょうか。見えるものに捉われず、見えないものにこそ、自分の疑問を晴らす答えがある。能楽は鑑賞者の解釈によって世界観が変わる。その自由さが魅力なんです」。
二人が共通して語ったのは、能楽を深く追求することで見えてきた感覚は、DNAレベルで日本人に備わっているもの。使わない時代があったために「忘れているだけ」の状態にあると、二人は口を揃えます。
能楽は、自分の心と五感、そして魂との対話の機会を与えてくれるものなのかもしれません。
興味を持った人、始めてみたいなと思った人へ
情報を手に入れようと思うと手軽にかなう現代において、五感で楽しむ能楽は逆行しているようにも見えるかもしれません。しかし、それは機械やインターネットに頼らない方法を教えてくれるものであり、私たち自身の中に元々備わっていた感覚を思い出すプロセスでもあると感じました。
大人は物事に対し、筋道やゴールを設定し、正当性を探すきらいがあります。「なぜ能楽を習うのか」「何の役に立つのか」――そんな問いを立ててしまうがゆえに、機会を逃しがち。しかし、能楽はもっと単純な動機で良いのだと、今回の講座が教えてくれました。
きっかけは人それぞれ違っても、「観て聴いて感じてハマる」という点は皆同じ。能楽は、長く付き合ってきたはずの自分の中の忘れていた感覚を思い出させてくれます。それは新しい発見でありながら、同時に懐かしい再会でもあります。
能楽を習ってみたい!能楽にふれてみたい!と思った方は、ぜひこちらのサイトをチェックしてみてください。名古屋市内で開催されている教室やお稽古情報、イベント情報をいち早く入手できます!
愛知で能楽を普及する会
【公式サイト】愛知で能楽を普及する会
能楽師シテ方 武田友志さん
【公式Instagram】tomoyuki.takeda_noh
能楽太鼓方 加藤洋輝さん
【公式サイト】能楽太鼓方加藤洋輝.
【イベント情報はこちら】
📣来年から能楽マンガの読書会を開催予定
ビーン・ブック・コーヒー
【住所】名古屋市中村区長筬町3−12 1F
【公式Instagram】beanbookcoffee
ダンス講師 若子理愛子さん
【公式サイト】-Smiloop☺︎笑顔をつなぐ
株式会社 JFF
【公式サイト】株式会社 JFF
📣3月3日(火)能イベント開催予定
男キモノ&BAR 蛙屋
【住所】愛知県名古屋市中区大須2丁目6-9 クリスタルスクエアビル3F
【公式サイト】男キモノ&BAR 蛙屋
まとめ
2時間の講座を拝聴して感じたのは、能楽が決して過去の遺物ではなく、現代を生きる私たちにとっても意味のある、生きた文化だということです。武蔵坊弁慶が牛若丸との出会いで得た「忠義する心」「真の強さ」「敬う気持ち」は、人間関係が希薄になりがちな現代社会において、むしろ今こそ必要とされる価値観ではないしょうか。
声を発すること、楽器を演奏すること、体を動かすこと――能楽はこれらすべてに効果が期待できます。そして「懐かしい」と「新しい」という相反する感覚を同時に体験できるのは、能楽ならではの副産物です。
観るのも習うのも特別な世界だと思っていた能楽。でも実際は、駅近で通いやすく、自分のペースで学べて、見学もできます。「ふきだし能」のような親しみやすいツールもあり、始めるハードルは思っているよりずっと低いのだと感じました。
能楽は「新しい自分に出会える場所」であり、何かを始めたい、五感を高めたい、自分の内側と向き合いたいと願う人にとってうってつけの場所です。
大河ドラマ「豊臣兄弟!」の放送を控え、歴史への関心が高まる中村区。戦国武将たちが愛した能楽を、彼らの生誕の地で体験できるというのは、またとない機会でした。歴史的な観点でも大変興味深く、700年の伝統が今なお息づいていることを肌で感じることができました。
能楽はいつでも両手を広げて温かく迎えてくれます。
能楽講座概要
【イベント名】「特別企画 和文化体験道場 能 橋弁慶」
【開催日】2025年11月18日(火) 15時~17時
【会場】名古屋市中村区香取町1-29 SAMURAIBUILD 2階
【公式サイト】愛知で能楽を普及する会
サイト内では能楽講座開催のお知らせやお稽古情報についても公開されています。ぜひご覧ください。
【サイト管理人Instagram】katsumi_channel
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